SK-IIは、アメリカの巨大企業P&G傘下のMAX FACTOR社のブランドの一つです。
P&G社中国のSK-IIのウェブサイトでは、SK-IIのヒストリーを少しだけお勉強することができます。 MAX FACTORの創業者はポーランド人で、19世紀初頭にアメリカに移民しました。SK-IIとは、1909年にLAで舞台用のメイクアップ化粧品をつくっていた方の名前のようです。 2週間前まで、中国の多くの人たちは、このブランドと日本が結びつくとは思っていなかったのではないでしょうか....。 2年ほど前、中国における日本ブランドの化粧品のマーケティングのお手伝いをしていたころ、定期的にマーケティング・リサーチを行っていたのですが、注目はいつもSK-IIでした。中国のほとんどのユーザーは、すっかりアメリカのブランドだと信じていました。(これは調査しなかったのですが)製造もアメリカだと思っていたのではないでしょうか、(中国国産としてではなく)輸入製品として認識されていました。SK-IIは"日本色"の極めて薄い、日本ブランドにとっては強力なライバルの"輸入"化粧品のブランドでした。 多くの製品が日本で製造されているSK-IIを、日本と何の関係も無いように思っていたのは不覚でしたが、そのことを示唆する情報があったのですね....。 「20数年前、SK-IIは日本の清酒工場で働く老婆の手がまるで少女のように柔らかくてきめ細かいことの謎を発見した...」とP&G社中国のSK-IIウェブサイトには、SK-IIと日本との関係がさり気なく触れられています。更にSK-IIアメリカのウェブサイトでも冒頭のFlashで、「日本の女性は美しい素肌の秘密を知っていた...」と中国のウェブサイト同様に清酒工場で働く女性の手の美しさをその秘密として紹介しています。 ちなみに日本のSK-IIのウェブサイトには、SK-IIの美肌と清酒工場との関連は一切触れられていませんし、中国でも日本女性の美肌を強調したようなマーケティングは行ってなかったように記憶しています。 ところが、中国で販売されているSK-IIの製品のほとんどは、日本の滋賀県野洲市の工場で生産されたるのだそうです。 ことの発端は、広東出入国検験検疫機構の検疫検査で日本から輸入されたSK-IIの基礎化粧品やファンデーションから中国の「化粧品衛生標準」では含まれてはならないはずの重金属であるクロムとネオジムが検出され、その上部組織である国家質量監督検験検疫総局が日本政府に検査強化を求めたこと。 そして9月14日に人民日報のウェブ版が「SK-IIなど輸入日本化粧品に含まれてはならない成分を検出」と報道したようです。この記事本文は恐らく客観的な事実を述べている雰囲気になっています。「P&G JapanのMAX FACTOR社が製造した」とP&G社の名前も出てますし、輸入元が日本だったので「日本」と言う文字が出るのも致しかたありません。けれども見出しが悪かった....。どうみても、「SK-IIなど」と「など」が入ることによって「輸入日本化粧品」全体が"悪者"に見えてしまう感じになっています。 その後、例によって新聞各紙やニュースサイトが「日本製」を強調した後追い報道を行い、日本では「また中国による日本製品バッシングか」などと報道されました。 そしてSK-IIの販売コーナーを有するデパートなどが、販売停止を始めます。 SK-IIは「製品は安全」を主張し、通常の規定による返品のみを受け付けましたが、返品を求めるユーザーが販売コーナーに殺到し、混乱を引き起こしました。そして、売り場の安全を確保するためにSK-IIの販売停止と販売コーナーの一時閉鎖を決めました。 それまでメディアはこぞって「日本製」を強調した報道をしていたのですが、風向きを変える出来事が起きます。 9月22日、SK-IIの販売元であるP&G社の上海オフィスが、返品規定に抗議するユーザーなどに"急襲"され、ガラスなどが割られてしまったのです((SOHU = 新民網からの転載)。 その後の報道は、「日本製」よりも寧ろ「P&G社」が立つ感じになりました。ちなみに、Googleの中国語ニュース検索では「SK-II 日本」は約900件であったのに、「SK-II 宝潔」(宝潔はP&G社の中国語名称)は約1,700件(9月14日から25日深夜まで)。 視聴率や販売部数やアクセス数を稼げると思い、当初は「日本製」に飛びつき、それを強調したメディアではありましたが、ユーザーのほうは「P&G社」のブランドであることをより重視したのでしょう。中国でSK-IIは、少なくとも日本ブランドとして認知されていませんでしたし、日本製と言う意識もユーザーの中には無かったのではないでしょうか。それを「日本バッシング」のネタとして祀り上げるには、いくら中国でも無理があったようです。 結果的に傷を負ったのはP&G社でしょう。SK-IIは数あるブランドの一つでしかありませんし、コーポレイト・ブランドからの距離を保つ必要があるプロダクト・ブランドをだったのに、発売元としてP&G社が表に立たざるを得ない状況になってしまったからです。しかも"毅然とした対応"をとったことが、結果的にネガティブな評価をもたらしてしまいました。 CSRにも積極的で、中国で尊敬される企業の上位にランキングされているP&G社ではありますが、「日本製」という導火線に火がついたためプチ炎上してしまった感じです。 9月25日には香港でのテレビ報道を紹介する形で「SK-IIに続き、4大ブランドの化粧品にも検出されてはならない物質が」という記事が新華網に掲載されました。Clinique、Lancome、Christian Dior、EsteeLauderが名指しされています。しかも本文の「SK-IIよりも多量に」と表現が興味深いところです。P&G社が仕掛けたカウンター・パブリシティなのかもしれません。 ちなみにCliniqueはアメリカ製造で、EsteeLauderが日本製造と言う新たな発見がありました。 確かに、中国のメディアは日本絡みのネガティブなニュースに沸き立ちます。中国人民に支持され、注目され、視聴率や販売部数やアクセス数が稼げると思うからでしょう。けれど、少なくとも消費者意識という観点でみると消費者はもっと公平な感じです。日本製でもアメリカ製でも良いモノは良い、悪いモノは悪いという是々非々で対処することができるようです。メディアの無理な誘導はさほど効果が無いようにも思えてしまいます。 9月26日、この騒動の火付け役だった人民日報が弁明じみた記事を掲載しました((新華網への転載記事)。輸入製品の品質管理における品質検査部門の成果を自画自賛する内容です。「外国ブランドの"国民を越える待遇"時代は終結した。」と。ここで"外国ブランド"を中国語では西洋をイメージする"洋品牌"と表現しています。また、ポンズやケンタッキーが祀り上げられた食品添加物"スーダン・レッド1号"などのことを例示していますが、この記事の中には"日本"という単語が1度たりとも出ていないのです。
by pandanokuni
| 2006-09-26 11:49
| 社会ネタ
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