経営やマーケティング、ブランディングなど、ビジネスを語る際に必要な論理的思考。その思考パターンを定型化し、誰でも使えるようにしたのが戦略フレームワークです。戦略フレームワークはビジネスのあらゆる分野で使われており、有名・無名を含めると、膨大な数が存在します。
戦略フレームワークを使うと、現状を論理的に構造化し、客観的に俯瞰できるようになります。また、いつもフレームワーク発想で考えるクセを付けていると、ヒアリングしたその場で企業が抱える問題点が見えてきたり、自分の主張や提案を、分かりやすく説得力をともなって伝えることができるようにもなります。
Web業界はテクノロジーの影響が非常に強い業界です。特に制作や開発に深く関わる業種・職種ほど、ビジネスの本質ではなく、技術的なトレンドに流された発想に陥りがちです。
しかし、戦略フレームワークの考えをマスターしていれば、技術トレンドに流されず、ビジネス視点で物事をとらえ、ビジネスの本質をブラさない発想が自然とできるようになります。技術的な趨勢が早いWeb業界の人ほど、戦略フレームワークを身に付けておくべきだと、私は考えています。
そんな便利な戦略フレームワークの中でも、とくに有名で定番ともいえるものを10種類ほどピックアップしてみました。いずれも初歩的なものばかりですが、だからこそあらゆる面で活用できるものばかりでもあります。内容を理解したうえで、是非積極的に活用してみてください。
※本文内に登場するサンプルは、使い方を分かりやすく説明するために即興で作ったものです。実際はヒアリングや調査を丁寧に行い、それにもとづいたもっとしっかりした分析を行っています。
自社(Company)、顧客(Customer)、競合(Competitor)の視点から現状を分析するためのフレームワークです。顧客や競合との関係性から現状の課題や問題点を導き出し、戦略や戦術の妥当性を検証したり、新しいアイデアを論理的に発案するために用いることができます。
エドモンド・ジェローム・マッカーシーが1960年代に提唱したのが4Pです。商品(Product)、価格(Price)、販促(Promotion)、流通(Place)の観点から分析するためのフレームワークです。対象となる商品のマーケティング面での特性や課題を、構造的に把握することができます。
4Pに対し、「売り手の視点ではなく、買い手の視点で」という観点から1980年代にロバート・ラウターボーンが提唱したのが、4Cというフレームワークです。これは、顧客価値(Customer Value)、顧客コスト(Costomer Cost)、コミュニケーション(Communication)、利便性(Convenience)で構成されるものです。4Pとは違い、具体的なモノが存在しないサービス型のビジネスにおいては、4Cの方がその構造を捉えやすくなります。
業界構造を把握するためにマイケル・ポーターが提唱したのが「5つの競争要因」です。これは、自社を取り巻くプレイヤーのパワーバランスを、競合業者、新規参入者、代替品、共有業者、顧客の5つの力(5フォース=5F)に分類して考えるフレームワークです。5Fを使うと、直接競合や顧客だけでなく、新規参入や代替品の脅威、供給業者の交渉力まで考えることできるため、自社を取り巻く外部要因の関係性を、より詳細に理解できるようになります。
内部要因をより詳細に捉えるためのフレームワークが、マッキンゼーが提唱した7Sです。これはハードの3Sと呼ばれる戦略(Strategy)、組織(Structure)、システム(System)と、ソフトの4Sと言われる価値観(Shared Value)、人材(Stuff)、スキル(Skill)、スタイル(Style)で構成されます。ハードの3Sは短期的に成果を上げやすいが、外部環境の変化に弱く、ソフトの4Sは強化するのに時間がかかるが、外部要因の変化に強い傾向があります。経営資源をこのように細分化して捉えることで、集中と選択をより具体的に計画し、模倣されにくいビジネスを構築することができるようになります。
経営資源の競争優位を把握するために使われるのが、ジェイ・B・バーニーが提唱したVRIOです。これは、経営資源を経済価値(Value)、希少性(Rareness)、 模倣可能性(Imitability)、組織体制(Organization)から評価を加えるものです。競争優位の源泉と、マイナス要因を把握することで、優位性を構築するために取り組むべき施策の方向性を導きだします。
外部要因において、もっともマクロな観点で要因分析をするためのフレームワークが、フィリップ・コトラーが提唱したPESTです。戦略に影響を与える外部要因を政治(Political)、経済(Economic)、社会(Social)、技術(Technical)に分類して用います。マクロ環境は、一企業の努力で変化させることが難しい外部要因です。この4つの観点で機会と脅威を整理することで、包括的な視点から戦略の舵とりを検討することができます。
同じくフィリップ・コトラーが提唱した、効果的にマーケティングを行うためのフレームワークがSTPです。これは、セグメント化(Segmentation)→ターゲット選定(Targeting)→ポジション取り(Positioning)という、マーケティングのための戦略プロセスを定義したものです。製品やブランドのマーケティング戦略を組み立てる際に、このフレームワークに沿ってリサーチや分析を行うことで、計画的な戦略の立案ができるようになります。
経営資源の効果的な配分を行うためにボストン・コンサルティンググループが考案したのがPPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)です。企業が抱える多数のサービスラインナップを、市場の成長性とシェアからなるマトリクス上に配分し、集中と選択を決定するためのツールです。また単一商品を扱うブランドにおいては、市場での現在のポジションを客観的に評価し、戦略の方向性を導き出すことができます。
内部要因の強み(Strengths)と弱み(Weaknesses)と外部要因の機会(Opportunities)と脅威(Threats)のマトリクスで戦略を思考するためのフレームワークです。内部要因と外部要因を分かりやすく整理するのに向いているフレームワークですが、より実用的な分析を行うためにTOWSに発展させて、戦略の方向性を導き出すこともできます。強みと弱みは、競合をどこに設定するかによって変わってきます。そのため、市場におけるポジションや競合にある程度のアタリを付けた段階で用いるのが効果的です。
このように戦略フレームワークは大変便利なものですが、一方、フレームワークができるのは、あくまで状況の整理だけ、ということも忘れてはいけません。「だからどうするのか」という主張や結論は、自力で導き出さなくてはなりません。また、それぞれの戦略フレームワークには必ず弱点があります。フレームワークに頼った安直な提案には、説得力が伴わないことも多いです。
フレームワークが与えてくれた分析結果を、どう判断し、どう結論付けて、どういう戦略をとるか。これは個々の人間の最終判断であり、自分で考え抜いて導き出さなければなりません。しかし、その大前提を踏まえて活用することができれば、戦略フレームワークは有益な示唆を与えてくれる、強い味方になってくれるでしょう。