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2007/06/10

ホームレスになってみよう。

世に曰く

「乞食は三日やったらやめられない。」

らしい。

そいつが本当かどうか試してみてぇ!

ということで、6/7~6/9にかけて新宿において2泊3日のホームレス生活をやってみた。

※以下、長い文章が続きます。そして余り笑どころはありませんのでご覚悟下さい。

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6/6の朝に自宅を出発し、

湘南新宿ラインに乗り込み新宿へ向かう。

昼前に新宿駅へ到着。

期待と不安と胸の動悸が高まる。

3日後に家へ帰るときの為に持ってきた着替えの服、金、本を全てバックに詰めて

コインロッカーに放り込む。

今俺にあるのは

  ・衣服

  ・コインロッカーの鍵

の2つだけだ。

ロッカーに鍵をかけて歩き出す。

爆発的に(消極的)自由が広がり、

燃え立つような高揚感が全身を襲う。

     何が起こる?

     何が見える?

しかし、10歩も歩くとふと体が重くなり、

ノロノロとしか歩けなくなる。

30歩を過ぎた頃だろうか。

俺は新宿駅の構内で呆然と立ち尽くしてしまった。

周りの世界の流れが余りに早く、

自分が取り残されたのを感じる。

ホームレスがノロノロと歩くのは

彼らが老人で腹が減っているからだけでは無い。

一般人は自分の目的や、外部からの強制により力を振り絞って毎日を生きている。

しかし、ホームレスには生きる目的も強制も無い。

驚くほどに無い。

力を振り絞って生きる必要が全くないのだ。

周囲の一般人の発するむせ返るような生命力に圧倒されてしまう。

ホームレス達も人気のない所や早朝はシャキシャキと歩くが、一般人の中ではダメだ。

圧倒されてしまうんだ。

||

どうにか気力を取り戻し、駅を這い出た俺は歌舞伎町へ向かう。

空模様が怪しかったので途中で捨てられたビニール傘、

そして今夜の寝床としてダンボールを拾う。

実際、傘とダンボールは路上生活の必需品でどのホームレスも持っている。

傘を右手に持ち、ダンボールを小脇に抱え歌舞伎町をふらつく。

チラシ配りからは無視されるが一般人の視線はいつも通りである。

が、30分もたった頃だろうか

街の世話役といったオジサンが声をかけられる。

オジサン:「お兄ちゃん大丈夫?

ダンボールなんか持ってどうしたの?」

やはり20過ぎの若造がホームレスをやっているのは目立つらしい。

俺は「別に何ともないっす。」といっておっさんから離れる。

その後もひたすら新宿を歩き回る。

色々なことを見て、考えた。

特に愕然としたのが

  「ホームレスの生活空間は非常に狭い。」

ということ。

街に立つ全てのビルは

貨幣を持った人たちにのみ意味有る施設

だ。

コンビニも本屋も何もかも。

貨幣を持たないホームレスにとって

全てのビルは巨大な岩の塊となんら変わらない。

全てのビルが僕の中で意味を失い、岩の塊になる。

ホームレスの生活空間はバカ高いビルの狭間にある道路だけ。

文明に満ち溢れた市街地を歩いていても

荒涼とした砂漠を彷徨っている気持がする。

夜に都庁の展望台へ行って上空からネオンにきらめく新宿を見ても街というより森だ。

僕にとっては危険と敵が渦巻く場所でしかない。

ALTA前で人間観察をするが、飽きてきてボーっと3時間ほど過ごす。

深夜1時過ぎに歌舞伎町へ行く。

目的は食糧調達。

初心者ホームレスが食料を見つけるのは本当に大変だ。

コンビニやファーストフードが賞味期限切れの商品を捨てるのを狙っていたが、

これは手に入らないんだな。

店側もホームレスが店前にタカるのを避けて店の近くには捨てていないし、

そういった美味しい食料はベテラン・ホームレスが掻っ攫ってしまう。

ゴミ箱も思ったより何も無いんだ。

俺の様な初心者ホームレスではとても食料は手に入らない。

仕方ないので道に何か落ちていないか探す。

飲み物はキャッチのホスト達が飲み残したペットボトルから少づつ飲む。

水じゃない、味がする。

すごく美味しいんと思うんだ。

食べ物は本当に見つからない。

皆だって飲み残しを捨てることは多いだろうけど、

食べ残しを捨てるのはあまりないだろ?

結局その日は道に落ちていたポテト・チップスの破片を拾って食べただけ。

雨に打たれてフニャフニャになったポテト・チッポスはジャリジャリと砂の味がした。

歩きつかれた俺は都庁脇の新宿4号線の道端に新聞と雑誌を敷き詰めて寝床を作る。

が、寒くて眠れない。

想像以上にコンクリート・シティでの野宿は寒い。ビル風も吹くし。

それにやっぱり怖い。

法律の保護から抜け落ちたホームレスには誰かに襲われても文句など言えないのだ。

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皆さんはホームレスが昼間からグダグダ寝ているのをみて

  「この怠け者どもめ。」

と思われるかもしれない。

あれは怠け者なのではなく、

俺達は昼しか眠れないんだよ。

寒さと襲撃の恐怖の中で熟睡なんか出来ないだろ?

暖かく、人目のある昼間だけが安心して熟睡できるんだ。

暫くして気絶したようにウトウトするが

気配を感じて目を開けた。

猫が獲物を見る目でこっちを見ている。

2日目の朝を迎える。

寝床から出て歩き出す。

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50m程歩いた時に傘を忘れてきたのを思い出して昨日の寝床を振り返るが、

俺は戻らなかった。

別のホームレスが俺の昨日の寝床を物色している。

ホームレスの世界も人間社会。

自分のものを忘れる奴が馬鹿なんだ。

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そのまま駅へ向かって歩く。

早朝の空に立ち並ぶ超高層ビルは僕にとって巨大な岩の塊だ。

誰も居ない超高層ビルの町並みは

壮麗な古代バビロンの遺跡の様。

暖を取る為に地下鉄駅の構内で立っていると

別のホームレスのオッサンに声をかけられる。

オッサン:「兄ちゃん、一緒に仕事いかない?

建設のやつ。」

石田:「あ、えーっと、俺はいいっす。」

オッサン:「あ、そう。

もうやってんのか。」

いまや俺はホームレスの一員と見なされたようだ。

実はね、この誘いにのっても良かったんだ。

だって本物のホームレスと一緒に日雇いをやるなんて面白そうだろ?

でもやらなかった。

というか、やれなかった。

この理由は最後に書きます。

その後は新宿中央公園でボーッとして過ごす。

朝8:00ころだっただろうか、

ベンチで座っていると大学の友人Sキチとばったり会う。

Sキチ:「あれ、石田君、何やってんの?」

石田:「あー、なんつーか、

俺いまホームレスやてんだ。」

Sキチ:「・・・・・なんで?」

石田:「人生経験、かな。」

Sキチ:「財布とか金は?」

石田:「全部コインロッカーの中。

今は着の身着のまま。」

Sキチ:「相変わらず無茶苦茶やってんね・・・・」

石田:「あ・・・うん・・・・・」

俺は当然として、何故かSキチも非常に疲労しており、

少し話してからSキチは「じゃあ頑張って。」といって去っていった。

その後は夜まで新宿中央公園で座り続ける。

他のホームレスも殆ど動かない。

ジッと座っているだけ。

現実が映画のように2次元的に平板化する。

僕とは無関係に流れる世界。

ホームレスの精神構造における中核は「あきらめ」だ。

比喩的にいえば、

  ホームレスになるってことは

  インクの尽きたボールペンと

  真っ白の日記帳を渡される様なものだ。

ホームレスになってしまえば過去は全て切り離され、

未来には何の希望もない。

日記帳は過去も未来も真っ白なままだ。

||

やがて全ての欲望が折り畳まれ、

生存に必要な行動だけをとる。

ニルヴァーナってのはこんな状態かね?

身体の方も冬眠状態に入りエネルギー消費を最小限に抑えているのが分る。

一昨日までとはまるで別な身体だ。

ホームレスにも気合の入り方の違いがある。

実は普通のホームレスは人前で道に座りこんだりしないんだ。

道で座っているのは結構気合の入ったホームレスであって、

人通りの激しい道で寝転がるホームレスになるまでにはかなりの修行が必要なのだ。

それと人間であることをやめる覚悟。

俺は昨日は道に座る所まで。

今日、道に寝転がってみた。

何かが自分の中でコトリと動く。

俺の中の人間が少し減った。

夜になって歌舞伎町にダンボールを拾いに行く。

空腹で精神が参る。

周囲の一般人の視線が僕の持っているダンボールに突き刺さる。

「いきなり襲われるかもしれない」という妄想に怯えてしまう。

エネルギーが欠乏して一歩一歩で息が切れるんだ。

ようやく新宿中央公園へ辿り着くと仲間の中へ帰ってきた安堵感で満たされる。

2日目の夜も寒かった。

切り裂いた雑誌のページを身体に巻きつけ、ダンボールにしがみつく。

聴覚が研ぎ澄まされ、10m先の微かな物音にも過敏に反応してしまう。

誰かが公園でトランペットを吹いているのが聞える。

3日目の朝を迎える。

コインロッカーからバックを引っ張り出し服を代えた。

色々な体験をボンヤリした頭で反芻しつつ駅へ向かう。

道路の端でホームレス達が動き出している。

山手線の始発に乗って僕は家に帰った。

以上が僕のやったホームレス体験記です。

といっても書いたのはホンの一部です。

久しぶりに大量にモノを感じ・考えました。

とても全て書く気力はありません・・・

そうそう、一つ付け加え。

ホームレス達を身近で観察して思ったのですが、

ホームレスといっても決して世捨て人の様なものではありません。

詳論や分析過程は省きますが、

彼らは単に超低所得者であり

商品経済と密接に関連して生きています。

ただ単なる超低所得者とは違い、

ある種の透明感を伴った「あきらめ」を持つ存在ではあると僕は感じました。

それとホームレスに仕事に誘われたが断った理由ですが、

結局僕がホームレス「まがい」でしか無かったからです。

彼らは寿命が尽きるまでのあきらめを持っていますが、僕は3日間です。

ホームレスになるのは時間を止めることに等しいのですが、やはり3日と一生では大きな違いがあります。

結局、僕は下世話な観察者でしかありません。

僕は取材の為にホームレスになったわけでもなく、

単なる好奇心だけで他人の世界に過度に踏み込むことに後ろめたさを感じたので断りました。

ホームレスの世界と一般人の世界は同じ人間社会ですが

やはり大きく隔絶しています。

本当に全くといっていいほど世界が違います。

同じ景色があれほど違って見えるのも驚きでした。

そして、「乞食も三日やったらやめられない。」というのは嘘っぱちです

「乞食も三日やれたら大したもの。」

というのが僕の感想です。

ホームレスになるのはそんな気楽なもんじゃないです。

先に

「比喩的にいえば、

ホームレスになるってことは

インクの尽きたボールペンと

真っ白の日記帳を渡される様なものだ。」

と書きました。

僕がこちらの一般人の世界に戻ってきて感じたのですが、

「僕は大事な過去が書き込まれた上に余白が大量にある日記帳を持ち、

ドバドバと溢れる程にインクの詰まったボールペンを持っている。」

という事です。

どういう形でかは分りませんが、

僕もいつかホームレスのように時間が止まってしまうのでしょう。

だったらその時が来るまで、

ペンを使って好き勝手に夢を描かない手は無いと思います。

※コメント欄停止のお知らせ

予想以上に多くの方からコメントを頂いたのですが、コメント欄は閉めたいと思います。

僕も学生生活など他の事に時間を割いていますので、一つ一つのコメントにお答えすることが難しいと判断しました。

折角コメントを頂いてもそれに返事をせず放置するのは失礼に当たると思ったためこのようような処置を取りました。

お忙しい中コメントをいただいた方々ありがとうございました。今後の参考にさせていただきたいと思います。

石田

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