検出限界の考え方
検出限界(検出下限ともいう)は,有為な放射能を検出することのできる下限値である。有為な放射能とは,統計的に見て,バックグラウンド値と明らかに異なる放射能が検出されたと判断できるということである。主に用いられている検出限界の考え方には,Kaiserの考え方とCurrieの考え方の2つがある。Kaiserの考え方は従来主流の地位を占めてきたという経緯があり,我が国で多く見られる3σ法もこの考え方に近い。ただし,近年Currieの考え方に変化する動きも見られる。一方,欧米ではCurrieの考え方が主流になっている。欧米では2σが多く用いられるという説明を以前どこかで読んだことあるが,これは誤りであろう。ISO/IUPACの考え方はCurrieの考え方であって,検出限界のデフォルトは3.29σである。おそらくCurrieの信頼度95%(=)とバックグラウンド値の標準誤差の信頼度95%(=2σ)を混同したものと思われる。これらの意味については後述する。
Kaiserの考え方とCurrieの考え方
Kaiserの考え方
Kaiserの考え方は,ブランク(バックグラウンド)の平均値から,その標準誤差σ(以降標準誤差をσであらわす)のk倍を検出限界とする考え方である。つまり,検出限界は次の式で定義される。
が真の計数率の場合は,ブランク値は0になるなので,
である。kの値としては3が用いられることが多く,この場合は,ブランク値から+3σ離れた値を検出限界とする。
検出限界を3σとした場合,放射能を誤って検出してしまう可能性は,±3σは信頼度99.72%なので,その片側0.14%(下図のαの範囲)である。 このように放射能が存在しないのに,誤って検出してしまう(擬陽性)ことを第一種の過誤と呼び,記号αで表す。過誤を犯す可能性を危険率あるいは有為水準と呼ぶ。
3σの危険率は0.14%である。ところが,ブランク信号と同様に測定値にもまた値の揺らぎがあるため,放射能が存在するのに検出されない可能性は50%になってしまう(下図のβの範囲)。 このように放射能が存在するのに,検出されなかったと判断してしまう(擬陰性)ことを第二種の過誤と呼び,記号βで表す。
Currieの考え方
Currieの考え方は,有為と見なす限界値(これを臨界値という)をα=βの危険率で定めるというものである。すなわち臨界値と検出限界は,ブランクが0のとき,
通常,危険率5%(α=β=5%)が用いられること多い。検出限界での試料側の確率分布はバックグラウンドと同じと考えて差し支えないので,危険率5%とすると,臨界値はブランク値から1.625σ離れた値で,検出限界はバックグラウンド平均値から3.29σ離れた値となる。
3σ法とCurrie法
3σ法とCurrie法による検出限界の算出の例を次に示す。
3σ法
バックグラウンドと試料をそれぞれ計測した時のバックグラウンドを差し引いた真の計数率とその標準誤差を求める式は以下の通りである。
ここで,
標準誤差のk倍以上で有為差を認めるとすると,検出限界の真の計数率は,
これをについて解くと,
Currie法
バックグラウンドと試料をそれぞれ計測した時のバックグラウンドを差し引いた真の計数率とその標準誤差を求める式は以下の通りである。
ここで,
標準誤差で有為差を認めるとすると,検出限界の真の計数率は,
これをについて解くと,