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■ OAから8年、10枚組みの豪華BOX仕様で再登場
今回と次回の2回にわたり、6月25日に発売された「NEON GENESIS EVANGELION DVD-BOX」を採り上げてみたい。いわずと知れたテレビアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」のテレビOA版すべてと劇場版3作品、そのほか大量の特典を収録した全10枚組みDVD-BOXだ。 この作品、国内DVD市場の黎明期に一度登場しているので、旧盤をすでに所有の方も多いと思う。ただし、画質や音質に関してその評価は低く、1巻6,600円(OA版)、8,800円(劇場版、2枚組み)という価格にそぐわない品質となっている。 OAから8年、おもむろに登場した今回のリニューアル版。収録するOA版はLD/VHS版をもとにしたものを主体とし、第21話から第24話までについては、OA版とLD/VHS版の両方を収めている。そのうち、OA版は若干の映像・音声に関するリニューアルが施されているという。 劇場版からは「DETATH(TRUE)2」、「Air」、「まごころを、君に」を収録。'99年発売の旧盤に含まれていた「REBIRTH」は、「Air」の前半部と同じ内容ということで、今回は省略されたようだ。 特典も充実している。Disc.1からDisc.10までの本編ディスクには各話のAR(アフレコ台本)を収録。さらに、Disc.11の特典ディスクには、LD版/VHS版のリリースに合わせて発売された「NEON GENESIS EVANGELION Genesis 0:0 IN THE BEGINNING」のほか、劇場版「DEATH AND REBIRTH」の特別鑑賞券と引き換えに入手できた「新世紀エヴァンゲリオン Genesis 0:0 THE LIGHT FROM THE DARKNESS」など、今となっては幻ともいえる映像が楽しめる。 中でも白眉は初公開となる「劇場版#26実写パート」と「AR用定尺ラッシュビデオ」だろう。前者は「まごころを、君に」で一部挿入されていた実写パートの完全版で、後者はアフレコ時などの製作過程で使用したという線画によるラッシュビデオ。どちらもマニアには非常に気になるコンテンツだろう。特典については近日掲載予定の後編で、詳しく紹介する予定だ。
以上、収録内容について簡単に紹介した。しかし、今回のリニューアルで最も注目したいのは、何といってもニューマスターをもとにした新しい映像と、5.1ch化された新音声だ。すでに発売済みの作品が再販売されるだけでなく、こうした形でクオリティアップが図られるケースは珍しい。とりわけ、アニメ作品のDVDでは異例といっていい。そこで今回は、およそ半年をかけてリマスターしたという、制作スタッフ入魂の画質と音質についてレポートしたい。
■ 旧盤とは比較にならない高画質ぶり '97年から発売されたOA版の旧DVDは、お世辞にも良い画質とはいえなかった。輪郭がボケ気味でにじみがひどく、フィルムの傷も散見された。エンコードノイズも激しい。極めつけは、テレシネ時のフィルム送りがガタ付いたためにできたと思われる、頻繁に発生する画面の揺れ。DVD黎明期の当時は比べるものがなかったため、「こんなものか」とあきらめていたものだ。しかし今なら「素人が作ったDivXファイルにも劣る」といいたくもなるクオリティだった。 DVD-BOXに封入されているブックレットによると、OA版のオリジナル16mmネガに対し、ドライではなく溶剤を使ったウェットテレシネを選択。「細部のシャープネスよりも全体の質感を重視した」ためだという。また、レジストレーションピン(パイロットピン)でフィルムを固定し、画面の揺れを大幅に低減。ビデオへは24PのHDフォーマットで収録している。 カラーコレクション(色補正)時には、庵野秀明監督が立会い、セル画や色彩設定を元に当時のこだわりを再現。新たにセル画を作成し、フィルムで再撮影したカットもあるという。また、画面の傷もデジタル処理で取り除き、フィルムのつなぎ目に現れる接着剤の跡もすべて消去したそうだ。作品を完全な形で残したいという、制作側の執念が感じられる。 その甲斐あってか、画質は素晴らしいの一言。庵野監督は色調のうち赤と黒にこだわったそうで、旧盤では完全に沈まず赤茶色だったシャドウや輪郭が、今回はビシッとした黒になった。そのため、シャープネスとコントラストがぐっと引き締まり、輪郭の緻密さは明らかに向上した。また、赤をはじめとした色の抜けも素晴らしく、セル画の艶ややかさをイメージさせるものになった。旧盤を鑑賞した直後に視聴すると、DVDではない何か別のフォーマットを見ているようだった。 もちろん、画面の揺れはほとんどない。傷も見受けられず、アニメ作品のDVDとしてはトップレベルの画質といえる。また、某劇場アニメ作品と異なり、色調がオリジナルと異なる印象を受けることもない。ファンにはうれしい配慮だ。 ただし、第16話のみオリジナルの16mmネガフィルムが紛失していたため、35mmのインターネガからテレシネを行ったという。そのためか、ほかの各話に比べて明らかに色純度や精細感に劣る結果になっており、マスター品質の重要性を再認識させられた。また、予告編の一部についてもオリジナルを紛失、D2マスターを使用したという。 DVD Bit Rate Viewer Ver.1.4によるビットレートの推移を見ると、激しく上下する旧盤(青のグラフ)に対し、新盤(赤のグラフ)は8Mbps以上で高止まりしているのがわかる。ガタ付きや傷のないニューマスターの威力だろうか。 旧盤では1話1タイトルで構成されているのに対し、新盤では4話をまとめて1タイトルにし、各話をChapterで切り分けている。新盤の第1話~第4話(Disc.1 Title.1)の平均ビットレート(映像+音声)は8.58Mbps。旧盤は第1話(Chapter.1)が7.13Mbps、第2話(Chapter.2)が7.47Mbps、第3話(Chapter.3)が7.15Mbps、第4話(Chapter.4)が7.16Mbpsだった。
劇場版3作品も同様に強化され、「これはVHSの3倍モードですか?」と思うような旧盤の画質から、大幅なクオリティアップを果たしている。まず、ビスタサイズながら非スクイーズの旧盤と異なり、今回はスクイーズ収録なのがうれしい。また、OAと同じくテレシネをやりなおしたためか(ただしドライテレシネ)、画面の印象はリニューアルされたOA版と良く似ている。色純度が高く、鮮やかですっきりした見た目。黒側の階調も豊かで、表現力は高い。 新盤の平均ビットレート(映像+音声)は、「DEATH(TRUE)2」が8.48Mbps、「Air」と「まごころを、君に」が8.59Mbps。旧盤はそれぞれ7.82Mbps、7.5Mbpsだから、OA版と同じくビットレートが1Mbpsほど高くなっているようだ。
■ 5.1ch化で迫力増加。そのせいで新たな苦労も…… また、音楽もすべて5.1chにリミックスされた。フォーマットはドルビーデジタルで、転送レートは448kbps。旧盤がドルビーデジタル2chの192kbpsだったことを考えると、音質面でも期待が持てる。 まず、オープニングの「残酷な天使のテーゼ」では、はっきりと帯域が広くなり、特に低域の締りが気持ちいい。シンセブラスによるグリッサンドも音が太くなり、迫力が増している。後ろからパーカッションが聴こえてくるところなどに多少の違和感を感じたが、音質は確実に向上。劇中のBGMも同様にクオリティアップしている印象だ。 爆発や打撃などの低音も格段に良くなった。もっとも、ハリウッドのアクション映画のイメージからすると、あんなに大きなエヴァが走り回るわりには、LFEが物足りなく感じる場面も多い。それでも、テレビ放送以上にスカスカな低音だった旧盤を知っている身にとって、うれしい変更点だ。また、セミの声、サイレンなどの環境音も効果をあげている。台詞はとてもクリア。旧盤が信じられないほどだ。 面白いのは、後方から聴こえる台詞が多いこと。はっきりと定位しており、レベルも大きく、明らかに台詞を聞かせようとしているのが珍しい。5.1chサラウンドの使い方としては少々あざといが、このシリーズの一連の演出にはあっていると思う。例えば、シリーズ後半から多くなるシンジの内省シーンでは、中心のシンジ(つまり視聴者)に向かって、様々な方向からダイアログが飛び交う。 また、発令所の緊張感もサラウンドならではの演出だろう。前方3chで進行する主要スタッフのやり取りとは別に、次々と後方から聞こえてくる味方に不利な状況報告。ただでさえ緊迫感バツグンの発令所シーケンスがより緊張感あるものになっている。 とはいえ、本音をいえば、リアスピーカーからの台詞になかなか慣れることができなかったのも確か。調整も難しい。普段の視聴でDSPや深めのディレイなどで後方に広がりを持たせている場合、台詞をぼやかせないよう、音場を狭める方向に調整した方が良いと思う。レベルも上げたくなる。とはいえ、あまりにも後方を偏重した設定にすると、今度は環境音などで違和感が生じる。ハリウッドが「後ろからの人の声」という演出を頻繁に使わない理由が、わかったような気がした。 もう1つ、5.1chになって困ったことがある。それはアニメ特有のフロントLRそれぞれへの台詞の固定。この作品でも、右スピーカーや左スピーカーだけを使ったダイアログが多い。何がまずいのかというと、センタースピーカーとの音の差だ。最初センターで鳴っていた台詞が、次の瞬間、右、または左に移る。このとき、センタースピーカーとフロントLRスピーカーの音色がちょっとでも異なると、声色が変わってしまい、会話劇の雰囲気は台無しだ。私の場合、フロントLRがEntry L、センターが同じシリーズのCenter 3Mという構成だが、それででもかなりの違和感を覚えた。 センタースピーカーでの再生をあきらめ、フロントスピーカー2本でセンターchをまかなう、ファントム再生も有効な手段だ。台詞がクリアなだけに、センターチャンネルをあきらめるのはもったいなく感じるが……。
■ 想いが冷めてなければ、買い替えを検討する価値あり とにかく、絵と音がはっきりと強化されたリニューアル版。1枚当たりの価格も旧盤より安くなったし、メニュー画面の使い勝手なども、今風に進化している。作品に対する情熱が今も薄れていないなら、購入して決して損はないクオリティだ。 なお、BOXではなく単品DVDも7月24日より1カ月に2枚ずつ発売される。各3,990円で、11月27日まで2枚ずつリリース。詳細は公式ページで確認できる。これを利用し、気になるエピソードだけ購入するのも手だろう。ただし、特典ディスクはDVD-BOXでのみ入手できるところが、例によってマニア泣かせなところだ。
□キングレコードホームページ (2003年7月1日) [AV Watch編集部/[email protected]]
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