昨日4日衆議院の拉致問題等特別委員会で参考人の一人として陳述してきました。
内容は衆議院TVでご覧になれます。
私の配布していただいた資料は下記の通りです。
国内問題としての拉致問題
特定失踪者問題調査会代表・拓殖大学海外事情研究所教授 荒木和博
1、辛光洙釈放署名
平成元年、 菅直人現総理も含む 133人の国会議員(別紙1→省略・インターネットサイト「電脳補完録」に掲載。http://nyt.trycomp.com/hokan/0025.html)が、「在日韓国人政治犯の釈放に関する要望」を当時の盧泰愚大統領に送っている。この「政治犯」の中には原敕晁さん拉致事件の犯人である辛光洙他本当の工作員も入っている。
北朝鮮による工作活動は昭和20年代から行われていたと思われるが、これに対して警察の対応は十分ではなかった。その要因の大きなものの一つとして朝鮮労働党と友好関係にあった政党・政治家による警察の捜査に対する妨害があった。かつて拉致問題をでっち上げとして救出運動を妨害していたのも朝鮮総聯およびそれらの親北勢力であったと言える。
2、平成17年6月14日参議院内閣委員会
この委員会では拉致に関する質疑の中で次のようなやりとりが行われた。
<森ゆうこ議員(民主)>国民が拉致されて救出を待っているときに、我が国の政府が自分でできる、主体的にできるということを、いつまでに、どのように、何をするのか、具体的にお答えいただきたいという質問なんですが。
<細田博之官房長官答弁>先方も政府で、彼らのこの領土の中においてはあらゆる人に対する権限を持っておりますので、これは我々が説得をして、そして彼らがついに、実は生きておりました、全員返しますと言うまで粘り強く交渉をすることが我々の今の方針でございます。
官房長官の答弁は政府は「北朝鮮に連れて行かれたら北朝鮮の好きなようにさせるしかない、救出をしない」と断言したことに等しい。
3、飯倉公館事件
平成14年9月17日、つまり小泉総理の第一次訪朝の日、福田官房長官と植竹繁雄外務副大臣が横田めぐみさん・有本恵子さん・市川修一さん・増元るみ子さんの家族に「死亡」を伝える。「何時死んだのか」とどの家族も聞いたが「分からない」と答えるのみ。しかし実際にはこの日の朝、「命日」は伝えられていた(別紙2→省略)。 なぜ家族には伝えられなかったのか。
例えば市川修一さんは北朝鮮の伝えた死亡の時期よりはるか後に目撃されており、それを家族に伝えれば北朝鮮の発表が嘘だと分かる。そうなれば世論も黙ってはおらず、日朝国交正常化にブレーキがかかるからである(この日付は2日後に「朝日新聞」がスクープすることによって明るみに出る)。
4、田原総一郎氏の裁判における陳述書
「朝まで生テレビ」の中での田原氏の発言について、有本恵子さんの両親が起こしている裁判の中で、被告田原氏側が提出した陳述書には次のような内容が書かれている。
私(田原氏)は、(北朝鮮から)帰国後の平成19年11月8日、外務省にて、外務省幹部4人と拉致問題について話し合いました。(中略)私が、ソン・イルホ大使が「8人以外に複数の日本人が生存している」と話したことを伝えたところ、外務省幹部は「同じ話を聞いているが、8人以外の複数の日本人が帰国しても、北朝鮮に対する世論が好転することはないと判断したため、その話はなかったことにした。」などと話しました。
北朝鮮はこれまで日本政府にさまざまなチャンネルで一部の拉致被害者(おそらくその大部分は未認定者)を返せると言ってきている。問題はそれによって拉致問題の全体像がより明らかになり、世論が沸騰するのを政府が恐れ、なかったことにしてきたということである。
5、山本美保さんに関わるDNAデータ偽造疑惑事件
この事件の概要は次の通り
・昭和59年6月4日 山梨県甲府市に住む山本美保さん(当時20歳、看護学校をやめて大学受験準備中)は図書館に行くと言って家を出たまま失踪する。
・同年6月8日 新潟県柏崎市の海岸で本人のセカンドバックが発見された。
・平成15年1月10日、特定失踪者問題調査会設立とともに特定失踪者として発表。新潟県警も拉致の可能性が高いとして発表した。地元には同級生などの会ができ全国の先頭を切って特定失踪者支援の活動が進んでいた
・平成16年3月5日 丸山潤・山梨県警警備1課長(当時)は 「失踪17日後の昭和59年6月21日山形県遊佐町の海岸で発見された身元不明遺体の骨髄と美保さんの双子の妹の血液のDNA鑑定の結果が一致した。従ってこの遺体は山本美保さんである」と発表。
・その後美保さんと遺体のサイズ・遺留品などの違いが次々と明らかになる(別紙3)。法医学の権威である上野正彦教授は山形の遺体の鑑定書を見て「美保さんとは別人であり、冬の寒い時期に亡くなった遺体」と断定(去る11月2日テレビ朝日系「スーパーJチャンネル」で放送)。
本件は山梨県警の独自判断で行ったことではなく。当時の政権中枢による拉致問題つぶしであることは明白。現在の県警警備1課の担当者は当時直接関わったわけではなく、こちらの質問に対しては偽造されたものと思われる書類を元に回答している。丸山氏の参考人としての召喚と本件が誰の指示によるものか等、徹底した真相究明が必要である。
5、現在の拉致問題解決のためのシステムの問題点
現在政府が行っていることは次のようなやり方である。
A 警察による事件捜査 → B 政府の拉致認定 →C外務省の交渉 → D 帰国
しかしこのやり方では拉致被害者を救出することはできない。
(1)長い事件で半世紀以上前に起きた失踪を事件捜査によって拉致であると明らかにするのはほとんど不可能。したがってAをクリアできるのはごく一部に限られる(第1次小泉訪朝直後の認定以来、8年間で拉致認定されたのは2人のみ)。
(2)拉致認定は支援法(北朝鮮当局によって拉致された被害者等の支援に関する法律)によって行われている。この法律は基本的に帰国した拉致被害者の生活を支援するためのものであって現在とらわれている拉致被害者を救出するためのものではない。
(3)外務省の交渉は前期2の細田官房長官答弁、4の田原氏陳述書からも「拉致被害者をどうしても救出する」という意思なく行われていることは明らかである。ちなみに朝鮮労働党機関紙「労働新聞」11月1日付論評では次のように述べている。
「《拉致問題》はすでに解決を見たのである。したがって我々はこれに対して再び論じる必要を少しも感じない。我が人民は、むしろ我が共和国の善意によって解決された《拉致問題》を持ち出して勝手に振る舞い続ける日本の醜態に沸き上がる激怒を禁じ得ない」
これまで進展がみられないのだから、少なくともこれまでのやり方と並行して別途の救出への努力を進めなければならない。そこには北朝鮮に近い人々による裏交渉があっても良いし、逆に特殊部隊を使っての救出もあり得る。
チリの33人を救出するには様々な方法が使われたが、ともかく「全員を救出する」という目的に沿って全てのことが行われた。拉致も当然同様でなければならない。これまでそうなってこなかった最大の理由は拉致問題が隠蔽されてきたからであり、それは前記の通りである。国民が現実を知れば世論は動く。チリの事件でも政府が事故を隠蔽していれば国民に「救おう」という意思が生まれようもなく、33人は今も坑道に取り残されたままだろう。
その意味ではこれまでの「返すように仕向ける」という姿勢を「救出する」に転換しなければならない。具体的には全く使っていない自衛隊、その機能や人材が十分に活かされていない海上保安庁や公安調査庁への明確な任務付与が必要不可欠であると確信する。
(資料)
北朝鮮向け短波放送「JSRしおかぜ」について
◆放送目的
(1)拉致被害者に対して日本で救出の努力をしていることを伝える。
(2)北朝鮮当局に注意しつつ情報を外部に出してもらうよう伝える。
(3)拉致被害者へ国外から北朝鮮内部の情報を伝える。
(4)北朝鮮の体制崩壊時などには避難場所等の緊急情報を伝える。
◆放送期間
すべての拉致被害者救出まで。
◆放送開始
2005年10月30日23時30分から
◆放送方法
当初、英国の放送配信会社「VTコミュニケーションズ」(NHKの国際向け放送を配信していた会社)に委託し、第三国の送信施設を経由して放送。2007年3月26日、総務省より無線局の免許が交付され、特定無線局(特別業務の局)として、国内送信施設であるKDDI(株)八俣送信所(NHKが独占使用、所在地 茨城県古河市)から放送を開始。
※当時の安倍政権下に於いて実現した特例措置。民間団体が無線局の免許を取得した前例は無い。
◆放送時間(毎日)
●当初1日30分、23時30分から0時まで放送開始。
●2007年3月26日から 朝5時30分~6時、夜23時00分~23時30分
◆放送言語
日本語、朝鮮語、中国語、英語
◆放送内容
家族の肉声番組、名前読み上げ(拉致・失踪データ紹介)、ニュース番組(日本語、朝鮮語、英語)ほか
◆聴取可能地域
北朝鮮全域(中国の北朝鮮国境付近及び韓国、日本各地で聴取可能)
その他、世界各国から多数の受信報告有り。(北米、南米、欧州、アジア各地域など)
◆費用
毎日1時間の放送で送信費用は、月額約50万円、年間約600万円。その他、制作、運営費を含め、最低でも約1200万円(2008年度)
運営は、基本的に一般からのカンパ、グッズ販売の収益で行っている。
2010年6月より、政府広報という形で年間約300万円の実質支援を受けている。