岡本 かの子 作 みちのく読み手:齊藤 雅美(2022年) |
桐の花の咲く時分であった。私は東北のSという城下町の表通りから二側目の町並を歩いていた。案内する人は土地の有志三四名と宿屋の番頭であった。一行はいま私が講演した会場の寺院の山門を出て、町の名所となっている大河に臨み城跡の山へ向うところである。その山は青葉に包まれて昼も杜鵑が鳴くという話である。
私はいつも講演のあとで覚える、もっと話し続けたいような、また一役済ましてほっとしたような――緊張の脱け切らぬ気持で人々に混って行った。青く凝って澄んだ東北特有の初夏の空の下に町家は黝んで、不揃いに並んでいた・・・