牧野 富太郎 作 若き日の思い出読み手:二宮 正博(2022年) |
一、雨の深山で採集
私は自分の学問に対してあまり苦労したことはなかった。今日まで何十年にわたる長い年月の間実に愉快に学問を続けてきて、ついに今日に及んだのであるが、平素その学問を特に勉強したようにも感じていないのは不思議である。
これは結局生まれつき植物が好きであったため、その学問があえて私に苦痛を与えなかったのであろう。
私は少年時代からたえず山野に出て植物を採集した。それが今日もなおやはり続いてその採集がとてもたのしい。
今から七十余年前、明治十三年の夏、私が十九歳の時、友人と二人で土予の国境近くにそびえる四国第一の高山、石槌山に採集に出かけた・・・