森 鴎外 作 カズイスチカ読み手:小林 きく江(2022年) |
父が開業をしていたので、花房医学士は卒業する少し前から、休課に父の許へ来ている間は、代診の真似事をしていた。
花房の父の診療所は大千住にあったが、小金井きみ子という女が「千住の家」というものを書いて、委しくこの家の事を叙述しているから、loco citato としてここには贅せない。Monet なんぞは同じ池に同じ水草の生えている処を何遍も書いていて、時候が違い、天気が違い、一日のうちでも朝夕の日当りの違うのを、人に味わせるから、一枚見るよりは較べて見る方が面白い。それは巧妙な芸術家の事である・・・