菊池 寛 作 身投げ救助業読み手:滝川 ゆきえ(2022年) |
ものの本によると、京都にも昔から自殺者はかなり多かった。
都はいつの時代でも田舎よりも生存競争が烈しい。生活に堪えきれぬ不幸が襲ってくると、思いきって死ぬ者が多かった。洛中洛外に激しい飢饉などがあって、親兄弟に離れ、可愛い妻子を失うた者は世をはかなんで自殺した。除目にもれた腹立ちまぎれや、義理に迫っての死や、恋のかなわぬ絶望からの死、数えてみれば際限がない。まして徳川時代には相対死などいうて、一時に二人ずつ死ぬことさえあった。
自殺をするに最も簡便な方法は、まず身を投げることであるらしい・・・