小川 未明 作 羽衣物語読み手:まあき、マナミン、ジョン酒巻(2022年) |
一
昔は、いまよりももっと、松の緑が青く、砂の色も白く、日本の景色は、美しかったのでありましょう。
ちょうど、いまから二千年ばかり前のことでありました。三保の松原の近くに、一人の若い舟乗りがすんでいました。ある朝のこと、東の空がやっとあかくなりはじめたころ、いつものごとく舟を出そうと、海岸をさして、家を出かけたのであります。
まだ、おちこちの森のすがたは、ぼんやりとして、あたり一面の畑には、白いもやがかかっていたけれど、早起きのうぐいすや、やまばとは、もうどこかでほがらかに鳴いていました。そうして、あちらの空には、富士山が、神々しく、くっきりと浮かびあがって見えました・・・