中谷 宇吉郎 作 雪の話読み手:福井 慎二(2022年) |
一
この頃新聞を見ていて気の付いたことは、スキーと雪の記事がこの数年来急に増してきたことである。主なものはスキー地の広告のようであるが、その他に純粋に雪と冬の山とを讃えるような記事もかなり沢山あるように思われる。何でも東京では山の雑誌が十種ばかりも出されていて兎に角そのどれもが刊行を継続されているし、雪の朝は郊外電車がスキー車を出すという噂さえきくほどである。誰かがいわれたように氷雪を思慕するというような心情が吾々のどこかに秘められていて、その一つの現われと見られる現象であるかも知れない。もっとも日本人が脂肪質を沢山喰べ、毛織物を一般に用いるようになったためかとも考えられる・・・