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片山 廣子

乾あんず

読み手:藤崎 巧子(2022年)

乾あんず

著者:片山 廣子 読み手:藤崎 巧子 時間:10分33秒

 十坪に足りない芝庭である。ひさしく手を入れないので一めんに雑草が交つて野芝となつてしまつた。しかし野も林も路もすべての物が青む季節になれば、野芝の庭もめざましく青い。庭のまん中よりやや西に寄つて一本のいてふの樹が立つてゐる。心をきり落したので、いてふはずんぐりとふとつて無数の枝を四方にさし伸べて、むかしの武蔵野の草はらに一ぽんのいてふが立つて風に吹かれてゐたであらう風景を時をり私の心にうつしてくれる。去年の初夏この野芝の庭に一つの異変がみえた。庭のごく端の方に一株の小さな小さな青い花が咲き出したのである・・・

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