夏目 漱石 作 永日小品 霧読み手:みきさん(2021年) |
昨宵は夜中枕の上で、ばちばち云う響を聞いた。これは近所にクラパム・ジャンクションと云う大停車場のある御蔭である。このジャンクションには一日のうちに、汽車が千いくつか集まってくる。それを細かに割りつけて見ると、一分に一と列車ぐらいずつ出入をする訳になる。その各列車が霧の深い時には、何かの仕掛で、停車場間際へ来ると、爆竹のような音を立てて相図をする。信号の灯光は青でも赤でも全く役に立たないほど暗くなるからである。
寝台を這い下りて、北窓の日蔽を捲き上げて外面を見おろすと、外面は一面に茫としている・・・