久坂 葉子 作 女読み手:成 文佳(2021年) |
女は五通の手紙を書き、それ/″\白い角封筒に丁寧におさめた。内容は悉く同じものであった。封をしてから、女は裏に自分の名前を書いた。それから五つの表書をしばらく思案していたが、やがて、ペンの音をさせて性急に五種類の名前を書きはじめた。
夕闇が女の部屋にある水仙の白さを浮きたたせた。女は黒革のハンドバッグに五通の手紙をしまいこんだ。
春の朝は、かんばしいかおりと明るい色彩をたずさえて女の寝床近くへ訪れた。
午前十時に女は家を出た。女は着物をきていた。黒地に寿ちらしのお召しであり、西陣の帯を結んでいた・・・