坂口 安吾 作 ラムネ氏のこと読み手:齋藤 こまり(2021年) |
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小林秀雄と島木健作が小田原へ鮎釣りに来て、三好達治の家で鮎を肴に食事のうち、談たま/\ラムネに及んで、ラムネの玉がチョロ/\と吹きあげられて蓋になるのを発明した奴が、あれ一つ発明したゞけで往生を遂げてしまつたとすれば、をかしな奴だと小林が言ふ。
すると三好が居ずまひを正して我々を見渡しながら、ラムネの玉を発明した人の名前は分つてゐるぜ、と言ひだした。
ラムネは一般にレモネードの訛だと言はれてゐるが、さうぢやない。ラムネはラムネー氏なる人物が発明に及んだからラムネと言ふ。これはフランスの辞書にもちやんと載つてゐる事実なのだ、と自信満々たる断言なのである・・・