楠山 正雄 作 鬼六読み手:堀口 直子(2021年) |
一
ある村の真ん中に、大きな川が流れていました。その川は大へん流れが強くて速くて、昔から代々、村の人が何度橋をかけても、すぐ流されてしまいます。村の人たちも困りきって、都で名だかい大工の名人を呼んで来て、こんどこそけっして流れない、丈夫な橋をかけてもらうことにしました。
大工はせっかく見込まれて頼まれたので、うんといって引き受けてはみたものの、いよいよその場へ来てみて、さすがの名人も、あっといって驚きました。ひっきりなし、川の水はくるくる目の回るような速さで、渦をまいて、ふくれ上がり、ものすごい音を立ててわき返っていました。
「このおそろしい流れの上に、どうして橋がかけられよう。」
大工は、こう独り言をいいながら、ただあきれて途方にくれて、川の水をぼんやりながめていました・・・