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楠山 正雄

鬼六

読み手:堀口 直子(2021年)

鬼六

著者:楠山 正雄 読み手:堀口 直子 時間:7分47秒

   一

 ある村の真ん中に、大きな川が流れていました。その川は大へん流れが強くて速くて、昔から代々、村の人が何度橋をかけても、すぐ流されてしまいます。村の人たちも困りきって、都で名だかい大工の名人を呼んで来て、こんどこそけっして流れない、丈夫な橋をかけてもらうことにしました。
 大工はせっかく見込まれて頼まれたので、うんといって引き受けてはみたものの、いよいよその場へ来てみて、さすがの名人も、あっといって驚きました。ひっきりなし、川の水はくるくる目の回るような速さで、渦をまいて、ふくれ上がり、ものすごい音を立ててわき返っていました。
「このおそろしい流れの上に、どうして橋がかけられよう。」
 大工は、こう独り言をいいながら、ただあきれて途方にくれて、川の水をぼんやりながめていました・・・

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