人見 絹枝 作 世界記録と私読み手:米澤 裕美(2021年) |
年の暮れまでにはまだ一月あるが、神宮の大会が終ると私はなんだか自分の生活の一年が終ったような気がする。
あわただしい一年ではあった。それだけになんだか今年はいつもの二倍の仕事をしたような気持もする。
去年九月、オランダのオリンピック大会から帰って来て年の暮れるまで旅のつかれと二度の遠征による体のつかれでふたたび競技場に立てるかと心配した。下駄箱の中で次第にサビのついてゆくスパイクシューズも何ら気にとまらないまでに競技生活の倦怠を覚えていた。私はこうした変化にあったのは初めてであった。
競技場に練習もせず社の仕事もやや落ち着いた時、私は二カ月ばかしをついやして競技生活の回顧録のようなものを書いた・・・