宮本 百合子 作 未来を築く力読み手:藤崎 巧子(2021年) |
女のひとというものは道理がわからないものだ、そう思われるのが常識であった時代はすぎた。夏目漱石が「吾輩は猫である」のなかで、婦人の精神の低劣さを諷刺した文章は、今日、もう日本の女性のおろかしさを語るものではなくなった。却って、漱石ほどの作家でさえも明治四十年代の日本の社会では、婦人についてこういう見解を語ったのだから、日本の封建的な習慣というものはひどいものであったと、凡ての人に考えさせる資料となった。
道理もわかり、その方法も可能性として婦人の生活に芽生えているのに、まだ何か、婦人の日々のうちには湧き立つ美しくつよい力が不足している・・・