室生 犀星 作 懸巣読み手:齋藤 こまり(2021年) |
何時か懸巣のことを本紙で書いたことがあるが、その後の彼女の真似声は一層種々につかい分けをして、殆ど、かぞえ切れないくらいである。懸巣から見ると人間の声ほど珍しいものがないらしい、大きな人間を毎日籠の中にいて見ていると、とても変化があって面白いらしい。たとえば私のくせである二つ続いた咳をごほんごほんと遣るのを聞いていて、その二つ続きの咳の真似をするのである。咳というものが余程面白いらしいのである。あはははという笑い声を何時の間にか覚えていて、あははは、……と笑う。私と客と話をしていると直ぐ話し声を真似して非常に低い声でぶつぶつ囁いている・・・