小川 未明 作 嵐の夜読み手:石橋 玲(2021年) |
父さんは海へ、母さんは山へ、秋日和の麗わしい日に働きに出掛けて、後には今年八歳になる女の子が留守居をしていました。
もとより貧しい家で、山の麓の小高い所に建っている一軒家で、三毛猫のまりと遊んで父さんや、母さんの帰るのを楽しみに遊んでいました。見渡す限り畑や圃は黄金色に色づいて、家の裏表に植っている柿や、栗の樹の葉は黄色になって、ひらひらと秋風に揺れています。うす雲の間から、洩れる弱い日影は、藁葺屋根の上に照って、静かな、長閑な天気でありました。やがて大暴風雨のする模様などは見えませんでした・・・