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中島 敦 作
読み手:水野 久美子(2021年)
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魯の叔孫豹がまだ若かった頃、乱を避けて一時斉に奔ったことがある。途に魯の北境庚宗の地で一美婦を見た。俄かに懇ろとなり、一夜を共に過して、さて翌朝別れて斉に入った。斉に落着き大夫国氏の娘を娶って二児を挙げるに及んで、かつての路傍一夜の契などはすっかり忘れ果ててしまった。 或夜、夢を見た。四辺の空気が重苦しく立罩め不吉な予感が静かな部屋の中を領している。突然、音も無く室の天井が下降し始める・・・