壺井 栄 作 瀬戸内の小魚たち読み手:桑村 恵子(2020年) |
この一月の末に、足かけ四年ぶりに郷里の小豆島へ帰った。大して目的はなく、もしかしたら持病になりつつあるぜんそくが癒るかもしれないと聞かされての、急な思いつきだったのだが、帰ってみると顔を合せるほどの人がみんな聞く。
「どんなご用で。どうしに? いつまで?」
実はぜんそく云々ともいえず、墓参りに戻ってきたのですといっても、これまでがなにか用事にかこつけてしか帰っていないものだから、そんな信心者とも信じられない顔をされる。そこで思いつきを言ってみた。
「今生の思い出に、おいしい小魚をたべに帰ってきました」
宿屋さんはさっそく魚の鍋をととのえてくれた
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