夢野 久作 作 どろぼう猫読み手:水谷 ケイコ(2020年) |
お天気のいい日に斑猫が縁側に坐ってしきりに顔を撫で廻しておりました。この猫は鼠を一匹も捕らぬくせに泥棒猫で、近所から嫌われていましたが、「ニャーニャーゴロゴロ」とおべっかを使うのが上手なので、この家の人に可愛がられていました。
ちょうどこの家の赤犬が通りかかって、この猫を見ると声をかけました。
「ブチ子さん今日は」
猫はふり返って、
「オヤ赤太郎さん。だんだん地べたがつめたくなりましたね」
とあいさつをしました。
「ブチ子さんは何をしているのだね」
猫はすまして答えました。
「お化粧をしているのですよ。妾はあなたと違ってお客様のお座敷へも出るのですからね」
犬はイヤな奴だと思いましたが、我慢して別れました・・・