室生 犀星 作 笛と太鼓読み手:水野 久美子(2020年) |
子供ができてから半年ほど経つと、国の母から小包がとどき、ひらいてみると、小さい太鼓と笛とが入つてあつた。太鼓には六十銭といふ赤縁の正札が貼られたままあつた。巴の紋のついた皮張りで、叩いてみると、まだ新しいだけよく鳴るのである。無器用な作りを見せた笛にも、やはり田舎らしい、暗ずんだよい音いろがあつた。
片町といふ目ぬきの田舎の市街に、中島といふおもちややがあつた。風船、ゴム玉、汽車や刀や、さまざまな珍奇な弄品が、ところ狭いまでならべられ、サアベルや鉄砲の錻力の光つた色が、ちかちかしてゐた・・・