小津 安二郎 作 車中も亦愉し読み手:宮澤 賢吉(2020年) |
汽車、電車、バスなどの公衆の交通機関は現代世相の風俗画とも言ふべきで、かういふ観点から例へば通勤の往復も極めて興味ありかつ有益な時間になるわけである。元来僕のなかには空想と観察が一緒にすんでゐるらしく、時に応じて新聞雑誌を読み、考へごとをし、連想し、退屈し、眠り、そしてまた乗り合はした人に興味や関心をひかれるといふ、この点極めて尋常の乗客なのであるが、それでも乗り物の中での記憶がいつのまにか頭のどこかに夥しくたまつてはゐる。モデルノロジイといふのがあるが、ああいふ事もやつてみれば面白いに相違ない・・・