小川 未明 作 春近き日読み手:渡邊 明美(2020年) |
お母さんが、去年の暮れに、町から買ってきてくださったお人形は、さびしい冬の間、少女といっしょに、仲よく遊びました。
それを、どうしたことか、このごろになって、お人形は、しくしくと泣いて、お嬢さんに願ったのであります。
「どうか、私をお母さんのところへ帰してください。」と申しました。
少女は、どうしていいかわかりませんでした。お人形のお母さんがどこにいるかということもわからなければ、せっかく仲よく遊んだお人形に別れることも悲しかったからです。
「私は、お母さんに聞いてみます……。」と、少女は答えました。
すると、かわいらしいお人形は、目をまるくして、
「どうか、お嬢さま、そのことはだれにも話さないでくださいまし。」と、頼みました・・・