種田 山頭火 作 白い路読み手:宮澤 賢吉(2020年) |
熟した果実がおのずから落ちるように、ほっかりと眼が覚めた。働けるだけ働いて、寝たいだけ寝た後の気分は、安らかさのうちに一味の空しさを含んでいる。……
妻はもう起きて台所をカタコト響かせている。その響が何となく寂しい。……寂しさを感じるようではいけないと思って、ガバと起きあがる。どんより曇って今にも降り出しそうだ。何だか嫌な、陰鬱な日である。凶事が落ちかかって来そうな気がして仕方がない。
急いで店の掃除をする。手と足とを出来るだけ動かす。とやかくするうちに飯の仕度が出来たので、親子三人が膳の前に並ぶ・・・