小川 未明 作 女の魚売り読み手:宮崎 文子(2019年) |
ある空の赤い、晩方のことであります。
海の方から、若い女が、かごの中にたくさんのたいを入れて、てんびん棒でかついで村の中へはいってきました。
「たいは、いりませんか。たいを買ってください。」と、若い女はいって歩きました。
この村に、一軒の金持ちが住んでいました。その家はすぎの木や、葉の色の黒ずんだ、かしの木などで取り囲まれていました。そして、その広い屋敷の周囲には、土手が築いてあって、その土手へは、だれも登れないように、とげのある、いろいろの木などが植えてありました。
若い女の魚売りは、その屋敷についている門から、しんとした内へ入ってゆきました。
「たいを買ってください。」と、女はいいました・・・