宮沢 賢治 作 うろこ雲読み手:成 文佳(2019年) |
そらいちめんに青白いうろこ雲が浮かび月はその一切れに入って鈍い虹を掲げる。
町の曲り角の屋敷にある木は脊高の梨の木で高くその柔らかな葉を動かしてゐるのだ。
雲のきれ間にせはしく青くまたたくやつはそれも何だかわからない。
今夜はほんたうにどうしたかな。八時頃からどこでもみんな戸を閉めて通りを一人も歩かない。
お城の下の麥を干したらしい空くひの列に沿って小さな犬が馳けて來る。重く流れる月光の底をその小さな犬が尾をふって來る・・・