宮沢 賢治 作 烏の北斗七星読み手:野村 明子(2019年) |
つめたいいじの悪い雲が、地べたにすれすれに垂れましたので、野はらは雪のあかりだか、日のあかりだか判らないようになりました。
烏の義勇艦隊は、その雲に圧しつけられて、しかたなくちょっとの間、亜鉛の板をひろげたような雪の田圃のうえに横にならんで仮泊ということをやりました。
どの艦もすこしも動きません。
まっ黒くなめらかな烏の大尉、若い艦隊長もしゃんと立ったままうごきません。
からすの大監督はなおさらうごきもゆらぎもいたしません。からすの大監督は、もうずいぶんの年老りです。眼が灰いろになってしまっていますし、啼くとまるで悪い人形のようにギイギイ云います・・・