高浜 虚子 作 百日紅読み手:宮澤 賢吉(2018年) |
昔俳句を作りはじめた時分に、はじめて百日紅といふ樹を見た。それ迄も見たことがあつたのかも知れないが、一向気がつかなかつた。成程百日紅といふ名前のある通り真赤な花が永い間咲いてゐるものであるわいとつく/″\其梢を眺めた。又さるすべりといふ別の名前のある通り木の膚のすべつこいものではあると、其皮の無いやうな膚をもつく/″\見た。
其後百日紅といふ題で句作する時分に、私の頭の中では、真夏の炎天下にすべつこい肌を持つた木の真赤な花を想像するのであつた。さうして葉はどうかと思つたが、葉は全然眼に入らなかつたから無かつたのであらう、葉は花が散つた後に出るものであらうと考へてゐた・・・