夢野 久作 作 約束読み手:池戸 美香(2018年) |
「ある人が橋の下で友達に会う約束をして待っていた。そのうちに雨が降って水がだんだん深くなって、その人の胸まで来た。けれどもその人は約束を守って立っていた。そのうちに水はいよいよ深くなって、その人の口の処まで来た。けれどもその人は動かなかった。そのうちに水は口から鼻から眼まで来て、とうとうその人は溺れ死んでしまった。だから約束を守るのはわるい事だ」
とある人が言いました。するとも一人の人がこう尋ねました。
「橋の下で溺れ死ぬ約束をしたのじゃないだろう。その人に間違いなく会うために約束をしたのだから、ほかのよくわかる処で待っていたっていいじゃないか」
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