種田 山頭火 作 草と虫とそして読み手:宮澤 賢吉(2018年) |
いつからともなく、どこからともなく、秋が来た。ことしは秋も早足で来たらしい。
昼はつくつくぼうし、夜はがちゃがちゃがうるさいほど鳴き立てていたが、それらもいつか遠ざかって、このごろはこおろぎの世界である。こおろぎの歌に松虫が調子をあわせる。百舌鳥の声、五位鷺の声、或る日は万歳万歳のさけびが聞える。夜になると、どこかのラジオがきれぎれに響く。
柿の葉が秋の葉らしく色づいて落ちる。実も落ちる。その音があたりのしずかさをさらにしずかにする。
蚊が、蠅がとても鋭くなった・・・