和辻 哲郎 作 寺田寅彦読み手:宮崎 文子(2018年) |
(昭和十一年)
寺田さんは有名な物理学者であるが、その研究の特徴は、日常身辺にありふれた事柄、具体的現実として我々の周囲に手近に見られるような事実の中に、本当に研究すべき問題を見出した点にあるという。ところで日常身辺の事実が示しているのは単に物理学的現象のみではなく、化学的・生理学的・動植物学的等の諸現象の複雑な絡み合いである。
寺田さんはそういう現象のうちにも常に閑却された重大な問題を見出していった。が更にいっそう具体的な日常の現実は人間の現象である。ここでも寺田さんは人々があたり前として看過している現象の中に数々の不思議を見出し熱心にそれを探究している・・・