薄田 泣菫 作 水仙の幻想読み手:能島 昭子(2018年) |
すべての草木が冬枯れはてた後園の片隅に、水仙が五つ六つ花をつけてゐる。
そのあるものは、肥り肉の球根がむつちりとした白い肌もあらはに、寒々と乾いた土の上に寝転んだまま、牙彫りの彫物のやうな円みと厚ぽつたさとをもつて、曲りなりに高々と花茎と葉とを持ち上げてゐる。
白みを帯びた緑の、女の指のやうにしなやかに躍つてゐる葉のむらがりと、爪さきで軽く弾いたら、冴え切つた金属性の響でも立てさうな、金と銀との花の盞。
その葉の面に、盞の底に、寒さに顫へる真冬の日かげと粉雪のかすかな溜息とが、溜つては消え、溜つては消えしてゐる。
水仙は低く息づいてゐる・・・