与謝野 晶子 作 食糧騒動について読み手:宮崎 文子(2018年) |
このたびの三府一道三十余県という広汎な範囲にわたって爆発した民衆の食糧騒動は天明や天保年間の飢饉時代に起ったそれよりは劇烈を極めて、大正の歴史に意外の汚点を留めるに到りました。私はこれについて浮んだいろいろの感想の一部を順序もなく書きます。
誰も知る通り、この騒動の直接の原因は物価の暴騰で、就中米価の法外な暴騰にあるのですが、間接の原因としては、物価の暴騰を激成した成金階級の横暴と、その成金階級の利益を偏重して、物価の調節に必要なあらゆる応急手段を早く取らなかった上に、意義不明の出兵沙汰や、時機を失した調節令などに由って、一層米価の暴騰を助長した軍閥内閣の秕政とに対する社会的不平を挙げねばなりません・・・