寺田 寅彦 作 猿の顔読み手:宮澤 賢吉(2018年) |
映画「マルガ」で猿の親子連れの現われる場面がある。その猿の子供の方が親猿のよりもずっとよく人間に似ている。しかも、それは人間のうちでも老人の顔に似ている。そうして老翁よりはより多く老婆の顔に似ているのである。それで、人間が非常に長生きをしたらだんだん親猿に似て来るかと思って考えてみる。西洋の絵入雑誌などに時々現われる百歳以上の婆さんなどには実際かなりに親猿のような顔をしたのもあることはある。
動物が年を取るほど高等になると仮定する。そうして一方ではまた、人間が年をとって後にだんだん猿の子供に似て来るとする。すると、もしかしたら、猿の方が人間よりも高等だということになりはしないか・・・