竹久 夢二 作 最初の悲哀読み手:渡邊 明美(2018年) |
街子の父親は、貧しい町絵師でありました。五月幟の下絵や、稲荷様の行燈や、ビラ絵を描いて、生活をしているのでありました。しかし、街子はたいそう幸福でした。というのは、父親は街子を、このうえもなく愛していたし、街子もまた父親を世の中で一番えらくて好い人だと思っていました。母親が早くなくなったので、街子は小学校を卒業すると、家にいて、父親のため朝夕の食べものをつくったり、洗濯をしたり、夜おそく父親が仕事をするときに、熱いお茶を入れたりしました。家の外を風が吹くように、貧しいことなどは、ちっとも苦労ではありませんでした・・・