小川 未明 作 ある夏の日のこと読み手:かわなみ のりこ(2017年) |
姉さんは、庭前のつつじの枝に、はちの巣を見つけました。
「まあ、こんなところへ巣を造って、あぶないから落としてしまおうか。」と、ほうきを持った手を抑えてためらいましたが、
「さわらなければ、なんにもしないでしょう。」
せっかく造りかけた巣をこわすのもかわいそうだと考え直して、しばらく立ち止まって、一ぴきの親ばちが、わき見もせず、熱心に小さな口で、だんだんと大きくしようと、固めていくのをながめていました。そのうちに、はちはどこへか飛び去りました。なにか材料を探しにいったのでしょう、しばらくすると、またもどってきました。そして、同じようなことをうまずに繰り返していました。
「このはち一ぴきだけだろうか。」
彼女は、同じ一ぴきのはちが、往ったり返ったりして、働いているのしか見なかったからです・・・