小川 未明 作 春さきの朝のこと読み手:緒方 朋恵(2017年) |
外は寒いけれど、いいお天気でした。なんといっても、もうじき、花が咲くのです。私は、遊びにいこうと思って、門から往来へ出ました。すると、あちらにせいの高い男の人が立っています。いま時分、戦闘帽をかぶり、ゲートルをしているので、おかしく思いましたが、
「まて、この人は、復員したばかりでないのか。そして、たずねる家がわからぬのでさがしているのではないか。」
こう、考えなおすと、私は、しばらく、そのようすを見まもったのでした。どうやら、この人は、頭の上のさくらをながめているのです。
「ああ、ぶじに帰って、母国の花を見るのが、なつかしいのだろう。」・・・