中原 中也 作 家族読み手:小川 幸香(2017年) |
朝な朝な、東の空の紫色の雲の中に、一つの家族がありました。 まづお婆さんが目を覚まし、家中のお掃除を始めます。恰度その時女中は台所で、竈の下を焚き付けてゐます。お婆さんはお掃除が好きで、大好きで、時偶女中がお掃除をしようものなら直ぐまた自分がやりなほすといふふうでした。といつてこのお婆さんは、何もそれ以上に邪慳だといふのでもなく、六ヶ敷屋でもないのでした。さういふわけで、朝な朝な、此のお家では箒の音がする時に、台所では竈の中で、とろとろと火が燃えてるのでありました。 間もなく此の家のお母さんは目を覚まして、鏡台の前で髪を結ひます・・・