中島 敦 作 弟子 十一~十六読み手:齊藤 雅美(2024年) |
十一
許から葉へと出る途すがら、子路が独り孔子の一行に遅れて畑中の路を歩いて行くと、を荷うた一人の老人に会った。子路が気軽に会釈して、夫子を見ざりしや、と問う。老人は立止って、「夫子夫子と言ったとて、どれが一体汝のいう夫子やら俺に分る訳がないではないか」と突堅貪に答え、子路の人態をじろりと眺めてから、「見受けたところ、四体を労せず実事に従わず空理空論に日を暮らしている人らしいな。」と蔑むように笑う。それから傍の畑に入りこちらを見返りもせずにせっせと草を取り始めた・・・