豊島 与志雄 作 泥坊読み手:堀口 直子(2024年) |
一
ある所に、五右衛門というなまけ者がいました。働くのがいやでいやでたまりません。何か楽に暮らしてゆける途はないかと考えていますと、むかし石川五右衛門という大盗人がいたということを聞いて、自分も五右衛門という名前だから、泥坊になったらいいかも知れないと考えました。
それで彼は家を飛び出して、ある橋の下に住みました。昼間はそこで寝て暮し、夜になると盗みに出かけました。ところが、そうやすやすと人のものを盗めるものではありません。毎晩しくじってばかりいて、ろくろく御飯も食べられない始末になりました。
ある日なんか、一晩中駆け廻っても、物を盗むことはいうまでもなく、ごみだめから食物のあまりを拾い取ることも出来ないで、まだ朝の暗いうちにぼんやり帰って来ました・・・