閉じる
泉 鏡花 作
読み手:水野 久美子(2024年)
ご利用のブラウザではこの音声を再生できません。
あちこちに、然るべき門は見えるが、それも場末で、古土塀、やぶれ垣の、入曲つて長く続く屋敷町を、雨もよひの陰気な暮方、その県の令に事ふる相応の支那の官人が一人、従者を従へて通り懸つた。知音の法筵に列するためであつた。 ……来かゝる途中に、大川が一筋流れる……其の下流のひよろ/\とした――馬輿のもう通じない――細橋を渡り果てる頃、暮六つの鐘がゴーンと鳴つた。遠山の形が夕靄とともに近づいて、・・・