宮沢 賢治 作 春と修羅 丘の眩惑読み手:入江 安希子(2024年) |
丘の眩惑
ひとかけづつきれいにひかりながら
そらから雪はしづんでくる
電しんばしらの影の藍や
ぎらぎらの丘の照りかへし
あすこの農夫の合羽のはじが
どこかの風に鋭く截りとられて来たことは
一千八百十年代の
佐野喜の木版に相当する
野はらのはてはシベリヤの天末
土耳古玉製玲瓏のつぎ目も光り
(お日さまは
そらの遠くで白い火を
どしどしお焚きなさいます)
笹の雪が
燃え落ちる 燃え落ちる
(一九二二、一、一二)