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山川 方夫

トンボの死

読み手:小林 きく江(2024年)

トンボの死

著者:山川 方夫 読み手:小林 きく江 時間:9分1秒

 二人が知りあったのは、青年の夏休みのアルバイトからだった。彼女はそのビルの一階にある喫茶店のウエイトレスをしていた。そして青年は、同じビルの四階と五階にひろいフロアをもつ電器会社に、夏休みのあいだだけやとわれた給仕だということだった。
 ときどき彼女が注文をうけたコーヒーやジュースを運んで行ったり、青年のほうでも喫茶店にやってきたりして、やがて彼女の仲間のウエイトレスたちは、彼女がちょいちょい青年のことを話題にしたがるのに気づいた。
「あの人はね、とっても可哀そうなの」
 と、よく彼女はいった・・・

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