芥川 龍之介 作 着物読み手:イトー ゲンヤ(2024年) |
こんな夢を見た。
何でも料理屋か何からしい。広い座敷に一ぱいに大ぜい人が坐つてゐる。それが皆思ひ思ひに洋服や和服を着用してゐる。
着用してゐるばかりぢやない。互に他人の着物を眺めては、勝手な品評を試みてゐる。
「君のフロックは旧式だね。自然主義時代の遺物ぢやないか。」
「その結城は傑作だよ。何とも云へない人間味がある。」
「何だい。君の御召しの羽織は、全然心の動きが見えないぢやないか。」
「あの紺サアヂの背広を見給へ。宛然たるペッティイ・ブルジョアだから。」
「おや、君が落語家のやうな帯をしめるのには驚いた。」・・・