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芥川 龍之介

着物

読み手:イトー ゲンヤ(2024年)

着物

著者:芥川 龍之介 読み手:イトー ゲンヤ 時間:5分27秒

 こんな夢を見た。
 何でも料理屋か何からしい。広い座敷に一ぱいに大ぜい人が坐つてゐる。それが皆思ひ思ひに洋服や和服を着用してゐる。
 着用してゐるばかりぢやない。互に他人の着物を眺めては、勝手な品評を試みてゐる。
「君のフロックは旧式だね。自然主義時代の遺物ぢやないか。」
「その結城は傑作だよ。何とも云へない人間味がある。」
「何だい。君の御召しの羽織は、全然心の動きが見えないぢやないか。」
「あの紺サアヂの背広を見給へ。宛然たるペッティイ・ブルジョアだから。」
「おや、君が落語家のやうな帯をしめるのには驚いた。」・・・

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