井原 西鶴 作 宮本 百合子 訳 元禄時代小説第一巻
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跡のはげたる娌入長持
聟入、娌取なんかの時に小石をぶつけるのはずいぶんらんぼうな事である。どうしたわけでこんな事をするかと云うと是はりんきの始めである。人がよい事があるとわきから腹を立てたりするのも世の中の人心で無理もない。自分の子でさえ親の心の通りならないで不幸者となり女の子が年頃になって人の家に行き其の夫に親しくして親里を忘れる。こんな風儀はどこの国に行っても変った事はない。
加賀の国の城下本町筋に絹問屋左近右衛門と云うしにせあきんどがあった・・・