山川 方夫 作 恐怖の正体読み手:小林 きく江(2024年) |
――だから、私は屍体なんかこわくはないっていったんだ。私には、人間の生命ってやつが不気味なんだ。なにをしでかすかわからないし、それはおそろしく、むごたらしく、奇怪で、醜悪なものだ。私のこわいのは、それだ。……まえまえから、私は、ただそのことだけをいいつづけてきたんだ。
喉ぼとけの突き出た瘠せた若い男は、そういうとコップの水を一息に飲んだ。彼は小柄で、負けた犬みたいなおどおどとした目つきをしていた。が、その目を急に昂然とかがやかせて、速口にしゃべり出した・・・